外国と仲良くやることと、交渉力を磨くことは一致しない
国際交渉に参加せず決定を後追いすると、残業だらけになる
「日下さん、小泉改革って、あれは何ですかね」と聞かれれば、僕は「ああ、あれは大蔵省潰しです。大蔵省潰しの仕上げです」という。それだけで終わり。あとはその人自身が、ウンウン唸って考えるわけだ。もし、あとになってその人と2回戦や3回戦があるとすれば、「仕上げとは何ですか」とか、「それは小泉さんが始めたことではなくて、そもそもはどこから始まりますかね」と聞かれることになるだろう。それについては、いろいろないい方ができる。ただ、僕の定義でいえば、「それは三木武夫さんからです」とか、そういうことになるだろう。
僕は、一言でいって通じるような相手には、わざわざ説明はしない。「では、なぜ三木武夫から始まったのか」というような話は、その相手のほうが詳しいことが多いからだ。
このように、相手が「なるほど、オレもそう思う」とか、「全然そう思わない」とか考えてくれることを期待して、僕は話す。しかし、たいていはそうはならないから、どうしてそうなるか、根本から説明してくれ、などと言われてしまうのだ。
こういうとき「あなたはもっと本音をいいなさい」と僕に向かっていうことは、「裸になれ」ということと同じだ。こんな裸でよければ、僕はいくらでも見せるように努力しているが、中には僕の裸を見たくない人、僕のいうことに説明を求めずにただ面白がるような人もいるだろう。
僕の話を「面白いから聞く」ような人は幸せだ。小泉改革など、どうなってもいい人たちといえる。「どうなってもオレの生活には大して関係ない」「関係が発生したときに努力すれば間に合う」と思っている人たちなのだ。
かつてヨーロッパが国際標準を決める会議を一所懸命にやっていた。そのとき、経団連で副会長をした造船会社の人が、「国際標準をヨーロッパ主導で決められたら大変なことになるから、国際標準規格会議に日本企業も参加して、そこで頑張っておかなければいけない」と、口をすっぱくしていった。けれども、三井、三菱、住友、日立、東芝のような大企業の人たちは、「決められたら、こちらはパッとうまくやりますからご安心を」と言った。それと同じ構造なのだ。
国際標準がヨーロッパ主導で決められれば、日本企業は不利な戦いを強いられることになる。たしかに、決められたあとでもその標準に合わせて勝ってしまうという実績は日本にはあるけれど、それゆえ我々日本人は残業ばかりさせられている。だから、「国際会議に出席して、その場で不利な条件は断り、有利な条件を世界に主張しておかなければ、あとが大変ですよ」と、造船会社の人は言ったのだが、大手企業は誰も理解しなかった。
中国の医者には約2000人の日本留学経験者がいる
以前、南京大学の大講堂に、約500人の学生たちを集めて授業が行われた。みんな日本語が分かる学生たちだ。そこで日本財団会長の笹川陽平さんが日本語で講演スピーチをした。笹川さんは壇上に立って、いきなり「私は皆さんが大嫌いな日本人です」といい放った。中国の大学でこんなことを言う日本人は、他にいないと思う。外務省の人も、学者も、企業の社長も言わないだろう。評論家でも無理だ。こういう切り出しから話を始めるのが、笹川さんの偉いところだ。
実はそれだけ日本語の分かる学生たちが集まるのも、日本財団が長年にわたって中国と友好親善活動をしてきた結果なのだ。要するに、財団の援助で日本に留学させて、日本語の分かる学生を何百人も育てたのだ。
日本のお世話になって、日本に留学させてもらって、日本語を覚えましたという学生が500人くらいいるわけだから、笹川さんが何を言ったって、誰も反対しない。中国で日本人が何で言える環境を生み出したのは、日本財団の長年の活動のたまものなのだ。
日本財団は初期の頃、中国の医者を毎年100人くらいずつ日本に呼んで、医学を学ばせて帰していた。それを20年間やると、そうした人が中国に約2000人もいることになる。つまり、中国の医者たちの中で、笹川OB会とか日本留学OB会に所属する人が約2000人にもなっていて、もはや一大勢力になっているのだ。
財団法人の草の根外交と、国家のネゴシエーター育成は
分けて考えよ
笹川財団はそういうふうに日本と関わりのある人を、中国にたくさん育ててきた。だからこそ、そんな彼らに向かって日本語で話しかければ、みんなに通じる状況が生まれるのだ。南京大学の授業のあと、教授が僕のところに来て、「本当に大成功です。ありがとうございました」というから、「この先、あなたの仕事があるだろう。あんたの仕事は何だと思うか」と僕は聞いた。それは、ここに集まった学生、教授に感想文を書かせること。「もちろん、何が出てきたって僕は構わないよ」といった。
ただし、そこで「日本語を習っておいてよかった。ストレートに話が分かった」と、そういう感想が出てくるはずだと僕は付け加えた。「出てこないなら、あなたたちがそういうふうに教えてやってくれ」と言ったら、「本当にそうだ。今、自分がそう思っている。学生たちにそう伝えます」と、その教授は答えた。このように、中国人も、若いときから日本に留学して、日本語を覚えて、日本に縁が深くなれば、自ずと日本びいきになる。
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