Sunday, December 18, 2005

国家にとっての「死活問題」とは何か

「領土は100年後に取り返せばいい」と中国人は考える

 太平洋戦争で東京中が焼け野原になった。しかし今、これだけ復興した。「死活」という意味では、あのとき日本は「死んだ」といえる。それに比べれば、最近の北朝鮮のテポドンなど「死活問題」にはなり得ない。10発飛んできても、2、3発当たるかどうかなのだから、これは当たったら運が悪かったという程度の問題といっていいと思う。


 「日本は死んだ」とみんなが思ったけれども、ちゃんと復活した。私のような戦中戦後世代は、それを見てきている。その目から見て、日本にとって重要だったのは「領土」なのか、「主権」なのか、それとも何だったのか。

 中国人は、領土は別に取られたっていい、また取り返せばいいという考え方をする。北方をロシア人に取られても、100年後にはいずれ取り返す。シベリアが全てロシアのものになっても、やがて中国人が住み始めて、結局取り返す。軍事力を使わなくても取り返せるのだ。

 日露戦争のとき、ロシアが南下して満州を取るから、日本は命がけでこれを防ぐことになった。そして、中国、当時の清に「一緒に戦おう」といったら、「いいえ、けっこうです」と断られた。「ロシアは北京まで出てくるぞ」と忠告しても、「けっこうです」という。「北京が取られても、もっと奥へ行けばいい」というわけだ。やがて、100年もすれば、またぽつぽつと中国人が入り込んで、結果、元に戻る。100年のスパンで見れば、土地はなくならない。

 でも日本は、領土は絶対に敵に譲らなかった。これは農家の発想だろう。太平洋戦争は、そういう戦い方をして負けた。多少の領土は譲ればよかったのに、と私は思う。

アメリカの51番目の州になったら、戦争も「嫌だ」とはいえない

 では主権はどうか。「日本はアメリカの51番目の州になればいいんだ」と考える人がいる。そういう人には、もし仮にそうなったときの姿を、責任をもって考えてほしい。

 アメリカ側が完全平等に待遇してくれたとすれば、下院議員の数は人口比でもらえることになる。そうすると、下院議員の3分の1は日本人になってしまう。上院議員は各州ごとに2人しか出せないから、「日本州」の代表も2人となる。今、アメリカの上院議員は100人いるが、それが102人になって、そのうちの2人が日本人ということだ。

 そうなると、日本人以外の上院議員100人が「戦争をする」と決めたら、日本州だけ「迷惑だからやめる」といえなくなってしまう。2票しかないんだから反対しようがない。「仮にアメリカは中国に戦いを挑む」と上院が決めれば、実際に行われるだろう。その戦争の先頭になって攻め込むのは、一番近い日本州と決まるに違いない。大統領命令で「先頭になってがんばれ」といわれたら、日本州はどうするのだろうか。

 そう考えると、国の主権というのは、なかなか重要な問題といえる。日本があの焼け野原からなぜ復興できたかというと、やはり国体が護持されたということは大きかったはずだ。天皇制が残り、そこから出発して日本精神、家族主義、あるいは教育などといったのものが受け継がれていった。ずいぶん形は変わったけど、それらの「種」は残っていたから、日本はまた復活できたのだ。

 家族主義を基盤とした日本精神と子供の教育。それが残っていたから、復興できた。都市が焼け野原になっても、工場が半分つぶれても、精神さえあれば復興するのだ。日本精神と子供の教育を守ることは、やはり日本という国にとっての死活問題だったと私は思う。だから、守るべきものは常に、日本精神と日本の教育、日本語だということだ。

「たとえ原爆を落とされても、国家のほうが大事」
とホーチミンはいった

  太平洋戦争末期の昭和20年ごろ、ベトナムにはフランス軍がおり、フランスの植民地としてビシー政権によって支配されていた。そのとき日本軍もベトナムに駐留しており、結局、日本軍がフランス軍を武装解除したのである。その後、日本が軍政を敷いた。

 その最中にホーチミンが独立を宣言した。国家の始まりはただの宣言だけでいい。仲間が何人かいて「ベトナム人民共和国が成立した、大統領は私である」と言えばいいのだ。「許さない」と言うフランス人はもういない。日本軍は「どうぞご勝手に」と放置していた。王族はのんべんだらりと暮らしていたし、武力も持っていない。そういう状態だからその宣言は成立したのだ。


 でも、宣言だけじゃ無理だよと日本陸軍が示唆して、ホーチミンを中心としたベトナム人に武器弾薬の場所を教えた。そして、彼らは独立戦争を戦い始めた。その後、間もなくして日本軍は敗れ、その兵隊の一部が残って、独立のために戦おうじゃないかということになった。フランス軍が、戦車と飛行機を持って戻ってきたから、ベトナムはアメリカ相手のベトナム戦争と同じことをフランス相手に実行したのである。

 そのクライマックスはディエン・ビエン・フーの戦いだ。谷間にフランス軍を追い詰め、包囲して、周りの山から決死隊が攻め入って、ディエン・ビエン・フーにいた10万人ほどのフランス軍を全滅させるところまでいった。するとフランスは「原子爆弾を使う」といい出した。

 そのときにホーチミンは、「使うなら使え」と答えたという。原子爆弾が恐いからといって、ここで手を緩めたら、またフランスに支配される。たった今できたばかりのベトナム人民共和国という国家がつぶれて、またフランスになってしまう。国家を奪われるということは、国民が奴隷化されて、肉体的にも精神的にも、もう自分でなくなるということである。だから原爆など恐くない。国家のほうがよっぽど大事だ。ホーチミンはそう言ったのである。

 そして「我々の精神」として、子どもの教育にも言及した。つまり、ベトナム人の魂を子どもに教えるということだ。国家を守るというときに、「子どもの教育」が重要なのである。教育こそ国家の死活を左右する。

 日本も同じで、戦後、復興できたのは、子どもをちゃんと教育してきたからだ。しかし戦後、6・3・3制の学制で、男女共学になり、子どもは偏差値競争に巻き込まれ、教育は全滅したかのように言われている。新聞を読むと常に「若い者はなっとならん」と書いてある。若い者はすばらしいなんてどこにも書いてない。でも子どもと付き合ってみれば、案外そうでもない。だが、活字の世界には、「子どもは案外おもしろいよ」という記事はどこにも出ていない。

どんなに時代が流れても、不思議と受け継がれていく「日本」


 今年12月に公開予定の映画「男たちの大和/YAMATO」に関係している知人が、先日、おもしろい話を教えてくれた。戦艦大和は出撃して沈められ、3000人も死んでしまうのだが、その出撃前、乗船予定の兵士全員に休暇が与えられた。その休暇でみんな田舎へ帰ったのだが、戻って来たときには死んでしまうことは目に見えていた。そのときはもう日本全体が敗色濃厚な時期だから、大和も出撃して沈むことはみんな分かっていた。それでも、全員が戻ってきた。

 その兵士たちの中に、少年兵というのがいた。少年兵というのは志願兵で、20歳になって兵役が課される前に志願して兵隊になった若者だ。18歳や19歳、さらには15歳や16歳で志願する者までいた。300人以上いた少年兵も、やはり休暇のあと戻ってきた。みんな揃って戻ってきて、みんな揃って死んでしまった。映画はそういうストーリーだという。

 その少年兵の役を京都の撮影所で募集したら、茶髪やピアスの若者が1000人くらい応募してきた。1次試験、2次試験、3次試験と審査が進むうち、その中で審査員が目を付けた男の子がいた。5次試験くらいになった頃、その子がバリッとした格好と顔つきでやってきた。

 「どうした?」と聞くと、学校の先生に「大和って本当にあったんですか、アメリカと戦争したって本当ですか、日本は負けたって本当ですか」と聞いたら、先生は「みんな本当だよ」と教えてくれた、という。「日本は負けたんだ、そして何もかも失ったんだ」と。

 でも彼にはそれが不思議でしょうがない。世界の国々と比べても、日本は何もかもある国だ。何がなくなったのか、いくら考えても最初は彼には分からなかった。ところが彼は「この前、やっと分かりました」という。続けて「それは道徳です、道徳がなくなったんです」といった。それを聞いて、審査員一同が感動したそうだ。

 茶髪でピアスでジーパンの若者が「道徳がなくなった」と、どうして分かったのだろうか。私も不思議に思う。でも、はっきりした答えは出ない。想像してみるだけだ。

 まずなんとなく想像できるのは、親や友達、親戚や年上の人に聞いたということだろう。では、「道徳だよ」と聞かされたときに、彼が「そうかな」と思った下地はどこにあったか。私は、マンガかな、とも想像する。マンガをバカにしたものではなく、ちゃんと道徳を教えるマンガもある。日本人の魂を教えるマンガだってある。

 このように、どれだけ時代が流れても、やはり火種は消えない。芽は残っている。

 その映画の中で、広島県尾道市に実物大の戦艦大和をつくった。100人以上の若者たちがその模型の上でアクションをすると、みんな真剣になって、本当に兵隊みたいな顔つきになってしまったという。「自分と同い年の少年たちが、こういうふうに戦ってみんな死んだのかと思うと、おろそかな演技はできません」と若者たちは口々に言った。

 こうした話を聞き、私は、日本精神や日本というのは消えないで残っているんだ、と感じた。それが残っていることには、よい面と悪い面の両方があると思うが、それでも不思議と、茶髪でピアスの若者にも受け継がれていくものなのだ。



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