Monday, March 19, 2007

東大の「産業総論」で露呈 日本人の知力崩壊が始まった

私はこの10年来、東大工学部の「産業総論」というオムニバス授業の1コマを受け持っている。この授業は、さまざまの産業界の現場にいる人が入れ代り立ち代り登場しては、それぞれの産業界の現状と未来について語るという授業で、私の担当は、日本のメディア・ジャーナリズム界についてである。授業の評価は、「どの産業界についてでもよいから、その未来について思うところを述べよ」という課題でなされる。プログラミングコンテストで勝てない日本オムニバスだから、基本的評価は学科の担当教官にお願いして、優秀な答案だけ読ませてもらった。低レベルの答案は読むだけ時間のムダだが、優秀な答案は、学生のものでもなかなか考えさせる内容を含んでいて面白いのである。今回は、計数工学科のT・S君の答案を読んでいて、ウーンと考えこんでしまった。彼はプログラミングが好きで国内外のプログラミング・コンテストによく出たりしている。その経験からいって、日本の情報産業に未来はないとしか思えないという。プログラミング・コンテストでは、ACM/ICPCという大学対抗戦が世界で最も有名なコンテストで、国内戦では毎年200チームが参加するが、そのうちまともなプログラミングが書けて、実質的な競争に参加できるのは、上位10チームぐらいで、あとの190チームはワンランク下で、まともな競争相手にならない。そういうプロセスを経て、情報に強い優秀な人材はいまどんどん外資系企業に引き抜かれつつある。今年、東大の情報系のいちばん優秀な人材が集まっている情報科学科の修士課程卒業生のトップグループはドサッとまとめてグーグルに抜かれてしまったという。あのNHKのドキュメンタリーにもあったが、いまグーグルは世界中の優秀な人材をかき集めているところなのである。日本の情報産業の弱さとして、プログラミングの水準の低さがあることは前から指摘されていたが、全体の水準が低いところにもってきて、若手の優秀な人材がどんどん抜かれてしまうのだから、日本の情報産業に未来はないという結論になる。基本的な頭の働かせ方が大問題にではどうすればいいのか。T・S君は、遠まわりのようだが、日本の小中学校の数学の水準を上げるところからはじめるしかないだろう、という。プログラミングというのは、要するにアルゴリズムの記述であって、アルゴリズムとは、要するにコンピュータにやらせる計算の手順のことである。それに必要なのは高等数学の知識というより、数学的にものごとを考えられるかどうかという基本的な頭の働かせ方である。コンピュータのプログラミングの要点は、いかにすれば複雑な計算を分解して単純な計算の集積に変えてしまうかを考えるところにある。コンピュータはかけ算すら足し算の繰り返しとして計算する。そういう数学の基礎中の基礎をちゃんと理解しているかどうかが最も重要なのだ。いいかえれば小中学校時代に算数・数学の基礎をしっかりやらせるかどうかが決定的に重要なのだ。日本の国力の基礎部分が崩壊しつつあるところが、ゆとり教育のせいか、あるいはそれ以前の問題からか、いま日本の大学生の多くが小中学校レベルの算数・数学すらできないほどに基礎数学力がダウンしている。そのあたりの事情は広範な調査にもとづいて、だいぶ前から戸瀬信之、西村和雄氏らによって指摘されている(「分数のできない大学生)」「小数のできない大学生」「算数のできない大学生」「大学生の学力を診断する」)。これらの本を読んで、日本の大学生の基礎学力崩壊のデータを見ると本当にゾッとする。私は、安倍首相のとなえる復古主義的、道徳教育的、国家教育管理型「教育再生」に賛成するものでは全くないが、「ゆとり教育」のいきすぎをやめて、小中学生に基礎学力をしっかり身につけさせるという方向の教育改革には大賛成である。問題はもはや、情報産業とかプログラミングの世界の問題ではない。日本の国力の基礎部分が崩壊しつつあるという問題なのだ。小中学校レベルの算数すら十分にできない連中が大学にゆうゆうと入ってきて、その欠落を補うこともなしに、そのまま社会に送り出されてゆくというレベルの大学がゴロゴロあるという国に日本がなってしまっているというところが問題なのだ。そういう連中があと10年もすれば日本の各界で中堅的担い手として登場してくる。そんな国に未来があるわけがないではないか。ウソだと思うなら先の戸部・西村氏の4書のうち、岩波新書だからいちばん入手しやすい、「大学生の学力を診断する」を手にとって読んでいただきたい。総社会的知的レベルダウン現象に悩まされることに今年から、大学には、「ゆとり教育100%」つまり、学校に入ってから全過程ゆとり教育でやってきましたという連中が入ってくるようになって、大学の先生方をとまどわせている。「このところ大学生の質がどんどん低下するばかりと思っていたら、今年はそれに輪をかけてひどい」という声があちこちで聞かれる。彼らが大学を出て一般社会に出ていくのはあと4年後のことになる。ゆとり教育の是正措置が少しはじまりかけたとはいえ、それが効果をあらわすのは、ずっと先になる。当分の間日本は、ゆとり教育で頭がこわれた連中がまき起こす総社会的知的レベルダウン現象に悩まされつづけることになる。その間に日本という国がこわれてしまわねばいいがと最近本当に心配している。ウソだと思うなら先の戸部・西村氏の4書のうち、岩波新書だからいちばん入手しやすい、「大学生の学力を診断する」を手にとって読んでいただきたい。総社会的知的レベルダウン現象に悩まされることに今年から、大学には、「ゆとり教育100%」つまり、学校に入ってから全過程ゆとり教育でやってきましたという連中が入ってくるようになって、大学の先生方をとまどわせている。「このところ大学生の質がどんどん低下するばかりと思っていたら、今年はそれに輪をかけてひどい」という声があちこちで聞かれる。彼らが大学を出て一般社会に出ていくのはあと4年後のことになる。ゆとり教育の是正措置が少しはじまりかけたとはいえ、それが効果をあらわすのは、ずっと先になる。当分の間日本は、ゆとり教育で頭がこわれた連中がまき起こす総社会的知的レベルダウン現象に悩まされつづけることになる。その間に日本という国がこわれてしまわねばいいがと最近本当に心配している。

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