Monday, February 27, 2006

ライブドア事件の原点はここにあった! 

1月16日、ライブドアを東京地検特捜部が強制捜査。翌週の23日夜には、証券取引法違反の疑いで堀江貴文社長(当時)ら4人が逮捕された。  あれから1か月たった。新聞、テレビのホリエモン報道が一巡したところで、改めてこの事件について考えてみたい。  まず私にとって興味深かったのが、強制捜査後の株価の動きである。直後に日本の株価は急落。世界中の株式市場に影響を与え、一時は世界同時株安の様相を見せた。しかし、日本の株価が下がったのは2日間だけ。10日後には元の水準に戻した。  これは何を意味しているのか。  確かに、日本経済全体が上昇トレンドにあったためもあるだろう。しかし、それ以上にマーケットには、「この事件は、他企業に波及しない」という判断があったはずだ。つまり、「ライブドアほど悪質なケースは例外的である」と認識されていたのである。  世間が間違えていたのは、「ホリエモンは法律の網の目をくぐっていた」という認識である。  そうではなく、100%違法行為を繰り返してきたのだが、証拠をつかまれなかったから、捕まらなかったというだけなのだ。  そもそも彼がやっていたことは、完全な「錬金術」であった。  増資をした場合、時価発行だろうがなんだろうが、企業会計の原則では「資本の部」に組み入るのが決まりである。増資をしても資本が増えるだけで、利益が増えるわけではない。  ところがホリエモンは、株式交換、投資事業組合、証券会社を巧妙に組み合わせて、資本の増加を利益にすりかえていたのである。  昨年のニッポン放送株取得に際しても、彼は法律違反を犯している。  発行済み株式の3分の1以上の株式を市場外で取得する場合には、株式公開買い付け(TOB)が必要であるにもかかわらず、「時間外ではあるが、市場での取引だからTOBの義務はない」と主張。リーマンブラザーズから800億円の資金調達をした当日、たまたま時間外市場にちょうどよい金額の株が売りに出ていたから、それを買っただけだと強弁したのである。  おそらく、売り手の村上ファンドと口裏をあわせたのだろうが、当時はそれが立証できなかった。そのため、ニッポン放送の買収は合法とされ、ホリエモンは捕まらなかっただけなのである。  また、2月7日の毎日新聞の報道によれば、元幹部から「東京地検特捜部の事情聴取を受けた」という報告を受けた直後、ホリエモン本人が手持ちの自社株600万株を売り抜けて、約40億円の利益を得ていたという。  確かに、12月下旬に790円台をつけてから、ライブドア株はずるずると値を下げており、個人投資家たちは「下がる要因もないのにおかしい」と不思議がっていたものである。本人が大量に売っていたのでは、下がるのも当たり前である。  これなどは、インサイダー取引のお手本のようなものである。ホリエモンはインサイダー取引の限りを尽くしていたといってもいいだろう。その後も、粉飾決算が明るみになるなど、どう見ても「網の目をくぐる」どころでないことは、ご存じの通りである。
ホリエモンが在京キー局をほしがったわけ 2005流行カタログ・ホリエモン
 では、ホリエモンのどこに問題があったのだろうか。  それを考える前に、彼の人となりを少々考えてみたいと思う。  かくいう私は、堀江前社長と3回ほど会ったことがある。数少ない出会いであるが、この出会いを通じて、よくも悪くも彼がかなり興味深い人間であることを、身近で感じることができた。  初めて会ったのは、2004年12月3日。私が持っているニッポン放送の番組に出演してもらったのである。もちろん、当時は、まだニッポン放送の株買い占めの話などは出ていないころだ。  私としては、それまで自分の番組に大物が来なかったので、ホリエモンの出演にたいそう喜んだものだった。  当時、彼はプロ野球の新規参入が失敗し、「高崎競馬がほしい」と発言していた時期である。  さっそくその理由を尋ねてみると、彼はこう答えた。 「完全競争市場では利益は出ません。でも、規制があれば、そこに超過利益が生まれますからね」  経済学でいう「レント」の考え方である。 「じゃあ、現在レントをもっとも抱え込んでいる業界はどこでしょうかね」 私が質問すると、彼は即座に答えた。 「在京キー局ですよ」  私は感心した。確かに、地上波が5波しかなくて新規参入ができないために、テレビ局は莫大な超過利益を生んでいる。  それに対して、彼のそれまでの企業買収はといえば、成果主義を掲げて給料をドンと下げるというものだ。  もし、フジテレビの買収に成功して社員の給料を下げることができたなら、彼はとんでもない超過利益を手に入れていたことだろう。  その意味では、彼の目のつけどころは鋭く、正しかったといえよう。  その当日、彼はニッポン放送の社屋を隅々まで見て回っている。どうも、あの日が、ニッポン放送乗っ取り計画の原点になったと思えてならないのだ。 「いったい、堀江さんは何をしたいんですか」 「時価総額世界一になりたいんです。ソフトバンクを抜きたいですね」  彼は、野心満々で答える。  だが、「そこまで金をふくらませてどうするんですか」と聞くと答えがない。 「代わりに使いましょうか」と冗談半分に言うと、「いやだ」と言う。  彼の最終目標は、常にお金を増やすことなのだ。  彼の心の中まで立ち入ることはできないが、少なくとも、ものすごく頭の切れる人間であることはわかった。  私自身が東京大学に入学して気づいたのだが、東大生の1割は桁違いに頭がいい。まるで、農耕馬とサラブレッドとの違いである。まさしく彼は、そのサラブレッドに当たる人間だった。  おそらく、彼の出身地の久留米では「孤高の天才」であり、周囲の人間はみなバカに見えたに違いない。  現に、つまらぬ質問をするインタビュアーの前では、何か別の仕事をしながら答えていたのだという。能力があまってしまうわけだ。  だが、あまりにも彼は頭がよすぎた。そのために、彼には友人ができなかった……。  実は、これこそがホリエモンのすべての原点なのだ。  心を許せる友人のいないホリエモンを夢中にさせたのが、「時価総額世界一」という目標だった。そして、その目標はいつしか手段と化していく。  やがて「目標達成のためには手段を選ばない」「法律を破っても、捕まらなければいい」という発想が、彼の経営方針になっていったことは想像に難くない。
虚業から実業に舵を切った孫正義との違い
 しかし、時価総額世界一を目指すには、状況はあまりにも不利だった。  というのも、すでに孫正義のヤフーがポータルサイトを押さえ、三木谷率いる楽天がインターネットショッピングというおいしいところを押さえていた。  そこを逆転するのは、並大抵のやり方では不可能である。そこでどうしたかというと、孫正義氏とまるで逆をいったのである。  確かに、かつての孫氏もホリエモンと同様に、時価総額の上昇をもとにしてM&Aを仕掛けるということを繰り返していた。M&Aが成功すれば、また時価総額が上がり、新たなM&Aに向かう……聞こえはいいが、結局は「自転車操業」なのである。  実業がないままに時価総額をふくらませていくのは、まるで砂上の楼閣を次々に積み上げていくようなものだ。実に危険極まりない。  そこで、危機感を抱いた孫氏はどうしたか。彼の人生とその資源すべてを賭けて、ブロードバンド参入という、とんでもないイチかバチかの勝負に出たのである。虚業を捨て、実業の道へと舵を切ったのだ。  その後も、日本テレコムの買収、そして携帯電話参入へと、孫氏は実業への道を思い切ったスピードで進んできた。  ところが、ホリエモンはそうはしなかった。あくまで虚業を貫きつつ、「ソフトバンクを抜く」という戦略に出たのである。だが、これは、実に危険極まりない賭けであった。  なぜなら、次々に買収して時価総額をあげていくためには、資本に対するリターンを確保しなければならない。そうしないと、買収資金が入ってこないからだ。  とはいえ、買収しておいしい会社というのは、それほど世の中に存在しない。  その結果、時価総額はどんどん高くなるのに、買うものがないという状況に直面した。そこで彼が編み出したのは、冒頭で述べた「資本を利益にすりかえる」という錬金術だったのだ。

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