Sunday, May 20, 2007

世界のお金の流れとバブル

世界で、お金が偏在している。この偏在したお金の流れを追うと、
いろいろな現象が起こっていることが分かる。今回はこの金によっ
て起こる現象を見てみよう。
お金は、いろいろな生産に伴って発生して、その生産物を消費する
所で消滅する。お金を生み出すのは生産による。このため、相対的
に高い生産物を大量に生み出す地域にお金が生まれることになる。
この地域は、石油の中東、雑貨など工業製品の中国、自動車や部品
の日本である。この3地域にお金が集まることになる。この3地域
のお金を追うと、中東は欧米の株やイスラム圏諸国への投資、日本
はBRICS諸国やベトナム、南アなどの世界各地に投資している。
中東はイスラム諸国への投資にはイスラム金融で行うために利子を
取れない。このため、共同出資という形で利益を配分するというよ
うなことをしている。このため、欧米投資では欧米の企業株を持つ
ことになる。これによって、中東諸国の王子たちは欧米優良企業の
大株主になっている。
日本の特徴は小金持たちが勝手に投資しているので、バラバラにな
っている。分散してリスクを回避しようとしている。そして、日本
のお金が欲しい地域は、金利を上げて、日本の小金持たちの金を引
き入れようとする。企業も日本から工場を東欧やインド、ベトナム
などと分散した生産を行うために投資をしている。拡大日本である。
もう1つ、公定歩合が安く、銀行金利が安いために、日本円がドル
やユーロになって、世界に出ている。所謂円キャリー取引であるが
、このため、円売りが多くて、円が大幅安になっている。このため
、一層、世界化している製品価格を低下することができ、世界で商
品が売れて企業業績は好調になる。
これで割りを食っているのが韓国と米国自動車会社である。韓国は
異常なウォン高で製品価格が低下できずに、日本製に負け始めてい
る。米国ではミシガン州選出の議員が日本円たたきをし始めている
。不当に円が安いと。
この2つの地域と違う動きをしているのが、中国である。元を国内
だけの流通としているので、生まれたお金を中国国内で回している。
このため、中国国内投資が高まり、生産工場などがどんどん建って
いる。しかし、工場が乱立したことで公害問題が起こり、製品の過
剰生産が起こりと、大きな問題を引き起こしている。
また、元とドルの相対的な価値を低く抑えるために、政府が為替市
場に介入して、米国議会で大きな非難を生むことになり、またドル
を大量に持ち、どうしようもない状態である。そして、ここにもう
1つの問題を抱え始めている。それはバブルの発生である。
不動産価格が高騰し、かつ、株が異常な値上がりを見せ始めた。
狂乱物価上昇が起こると、その発生を止めることは非常に難しい。
注意をしないと、日本と同じような土地取引停止などという劇薬を
使用してバブルを潰すことになる。これをすると、この後の不況が
15年と長期にわたり、国民生活を圧迫するし、日本ほど国民生活
が豊かでない中国では非常に恐ろしいことになると見る。
米国の元FRB議長のクリーンスパンが、ITバブル発生時、バブ
ルを潰してはいけないと注意していたが、その注意を中国も聞くこ
とが必要でしょうね。徐々に収束させる知恵が必要になっている。
この対応として、中国人民銀が金融引き締めで1年物金利0.18%上
げて金利11.5%にするというが、この高金利でもバブルは収束しな
いはずである。
中国金融当局の動向を注意して見る必要がある。また、中国に投資
するのは、今はまずい。バブルが収束した後、安値になってから中
国企業株を買い取ることにするべきである。日本人は絶対に中国株
に手を出してはいけない。今、中国株を持っている人はなるべく早
く売るべきでしょうね。いつ崩れるかわからない。しかし、崩れる
手前が一番儲かるので、これはお任せする。

Thursday, May 10, 2007

中国経済の危機

中国経済が、過剰投資の状態になっている。中国では、ある商品が売れると見るや、たくさんの企業がこぞってその商品を作ろうと生産設備などに投資し、その挙げ句、商品が作りすぎになって値引き競争が激化して値崩れし、赤字を出して倒産や撤退する企業が相次ぐパターンが、以前から繰り返されてきた。近年では、中国人民元の対ドル為替の切り上がり予測や、中国のWTO加盟にともなう市場開放を見込んだ外国企業も投資を増やし、過剰投資に拍車がかかっている。

 過剰投資は、いくつかの分野にわたっている。その一つは沿海部諸都市の不動産だ。たとえば上海の場合、都心に近い内環状線の内側地域のマンション価格は、2002年には1平方メートルあたり4000元程度で、中流市民が買える範囲内(5000元以内)にあった。だが、03年ごろから「温州商人」ら中国国内の投資家集団が上海の不動産高騰に目をつけて投資を急増させ、新たに開発された浦東地区を中心に、高騰が始まった。(上海の内環状線の地図

 温州商人は、浙江省温州の投資家集団で、1980年代から、ボタンや靴などの製造によって得た資金を投資に回し、中国全土から儲かりそうな案件を探して投資や投機を繰り返してきた。浙江省では、温州のほか、台州などの都市も、製造業で蓄えた富を使って投資をやっている。彼らの上海不動産への投資は1ー2年でピークを迎え、その後、彼らは投資資金を、より北方の山東省や東北3省(旧満州)などに移していった。この時期、北朝鮮の国営の百貨店やバス会社を買収したのは彼らである。(関連記事

 上海の不動産市場は04年に入ると、温州商人らの資金が北方に去った代わりに、アメリカからの圧力を受けて人民元の対ドル為替が切り上がるのではないかという予測から、欧米や東南アジア華僑からの外国資金が流入し、不動産価格の上昇が続いた。上海の内環状線の内側地域のマンションは、04年に1平方メートル1万5千元、05年には2万3千元前後まで上がり、中流市民には手が届かなくなり、実需ではなく投機によって取引されるものとなった。

(外国資金の流入については、中国当局の為替管理が厳しいので巨額の流入はあり得ないという説もあるが、規制の抜け穴を通って資金が入ってきているという説もある)

▼腐敗混じりの不動産開発で土地を取られた農民が暴動

 不動産価格の高騰は、上海だけでなく、北京や広東省、山東省などの沿海部の大都市でも続き、住宅だけでなくオフィスや工業用地も値上がりしている。不動産の高騰は、大都市から中小都市、沿海部から内陸部へと波及している。企業が、安い賃金を求めて内陸に工場を移すにしたがい、内陸の工業用地も値上がりした。

 こうした変化は、中国全土の中小都市の役所(地方政府)の幹部たちに、新たなビジネスチャンスを与えている。中国では、土地はすべて公有(政府所有)であり、所有権を譲渡できない。その代わり、政府は土地の使用権を、20年とか99年とか、期間を決めて民間に売り出している。市長や共産党書記といった地方の幹部たちは、自分たちの地域にも工業団地やマンション群、会議場(コンベンションセンター)などを作れば、進出企業や人口が増えて発展するに違いないと考え、数年前から各地で相次いで不動産開発が始まった。

 問題は、これらの計画の多くは、現実的な需要予測に基づいていないうえ、事業によって私腹を肥やそうとする腐敗した地方幹部が多いことである。腐敗幹部は、自分の親戚などに開発会社を立ち上げさせ、それまで農地などだった地域を開発する決定をした上で、開発会社に土地の使用権を安く売り、開発会社が建設資金などを銀行から借りる際には地方政府が債務保証を行い、資金調達も容易にしてやる。開発会社が上げた収益は、親戚を通じて幹部のポケットに入る。

 開発対象地域は、農村部では農地からの転用で、市街地では国有企業の労働者(事実上の失業者が多い)の低層住宅などであり、もともとその土地を使っていた農民や居住者には、補償をする必要がある。しかし、自らの金儲けを優先する幹部役人と開発会社は、補償金を少ししか出さず、金額交渉にも応じないため、各地で役所を取り囲む暴動が発生することになった。

 中国の中央政府は、以前からこの問題の解決を試みているが、うまくいっていない。1998年には、全国の農民に、今耕している農地の今後30年間の使用権を明記する法律改定を行い(それまでは農民の土地使用権が法律で明記されていなかった)、2002年の法改定では、役所が農地を収用する際には農民に補償をしなければならないことが明記された。これらは、農民の土地使用権を明確にすることで、農民が自分の農地の質を上げる投資を誘発し、農業効率を向上させようとする政策も兼ねていた。

 しかし05年に行われた全国調査によると、02年の法律改定は、大半の地域では実施されておらず、ほとんどの農民は、法律改定そのものについて知らなかった。中央政府は地方政府に、農民に対して法律改定を説明することを命じていたが、農民に権利意識を持たせたくない多くの地方政府は、何の説明もしていなかった。

▼アメリカからの外圧を使って地方政府を統制する

 開発などで土地を役所に取られる農民は、1995年から2005年の10年間で15倍になったが、土地を取られる際に、代わりの土地の手当てなどの補償について、役所側との交渉を許された農民は2割だけだった。約3割のケースでは、役所は農民に補償を約束したものの空約束で終わり、履行されていない。

 05年に行われたこの調査のやり方自体、中国の現状を物語っている。この調査は、北京の人民大学と、アメリカのミシガン州立大学、シアトルの農村開発研究所(Rural Development Institute)の共同で行われた。中国の機関だけによる調査だと、地方政府の協力が得られなかったり、調査結果に対してさまざまな政治圧力がかかりかねない。わざわざ中国を批判する超大国アメリカの機関を入れることで、調査結果が国際的に問題になり、この「外圧」によって中央政府が地方政府に言うことを聞かせられる仕掛けを作っている。この調査に関する報道は、反中国の姿勢が強いタカ派の新聞ウォールストリート・ジャーナルに載った

 地方政府の幹部たちは、不動産開発を使った金儲けによって、巨額の資金を得ている。この金の一部を、党中央の高官に贈り物などとして渡せば、中央の高官は、地方幹部の腐敗に目をつぶるよう、胡錦涛政権に圧力をかけてくれる。こうした圧力に対抗するために「世界はわが国の腐敗を批判してますよ」という「外圧」を作ることが必要になっている。

 中国政府は最近「年間に全国で農民暴動が9万件近く起きている」「地方政府による土地取引の6割は違法である」といったショッキングな発表を行い、欧米や日本のマスコミから「やっぱり中国はひどい国だ」と批判されているが、中国政府がこのような自滅的な発表をする背景にも、外圧を使って地方政府に言うことを聞かせようとする戦略がありそうだ。(関連記事

 中国は「独裁政権」であるが、かなり強い独裁をやらないと、全国を統治していくことはできない状態になっている。独裁をやめれば、中国は混乱し、経済発展も失われる。

 中央政府が地方政府をあまり強く取り締まれない理由は、腐敗構造以外にもある。中国では1970年代まで、すべての企業は国有で、教育や医療、住宅、年金、食糧や衣類の配給券など、すべて職場で手当てしてもらえた。だが、その後の改革開放で、教育や医療の公的補助金や保険制度を整えないまま、なし崩しに民営化が進み、学校も病院も財源不足のため、教科書代や暖房費、治療代を受益者に請求せざるを得なくなっている。

 都会の人は、企業が用意する医療保険に入れる人もいるが、農村ではそれがないので、医療費の平均的な自己負担率が9割となっており、医療費は高く、病院に行けない人が多い。また農村では、中学校を卒業できない子供が4割になっている。(関連記事

 中央政府は、こうした農民の苦境を救う政策を始めているが、重要なのは地方政府の財源確保であり、地方政府が不動産投資などをやって利益を出すことを許容し、住民の医療や教育の補助金の財源を作らせる必要に迫られている。

▼人民元の為替制度が不動産バブルの一因

 上海などの大都市の不動産高騰と、地方の中小都市における開発区の乱造は、投機を好む中国人性質、市場全体の需給バランスを考えない近視眼的な傾向(中国では1992ー93年にも、全国的な開発バブルとその崩壊が起きている)、法体制の未整備と法律軽視の態度など、中国社会が持っている性質に起因する部分がありそうだが、もっと経済的な原因もある。

 その一つは、中国人民元の問題である。中国政府は、人民元の為替相場を政府が決定できるよう、民間企業に外貨を持たせず、民間が輸出などで稼いだ外貨は、いったんすべて中央銀行(中国人民銀行)が強制的に買い取るという「外貨集中制」を採っている。中国は2002年以来、毎年20ー30%台の輸出増加をしているので、中央銀行が保有する外貨は急増し、最近では外貨準備額が日本を抜いて世界一になった。

 このことは同時に、人民銀行が外貨を買う対価として民間に放出する人民元が急増することを生んでいる。強制的に外貨を売って人民元を買わされた民間企業は、その人民元をどこかに投資して運用する必要がある。加えて、経済成長の恩恵で都市住民の貯蓄も増え、その資金も常に投資先を探している。中国では預金金利が高くないし、株式市場も不安定なので、主な投資先は不動産ということになり、不動産価格の高騰につながっている。

 カネ余り現象を解消するには、中国政府が金利を上げればいいのだが、金利を上げると、世界から人民元を買いたいと集まってくる潜在需要が増え、人民元に対する切り上げ圧力を高めてしまうので、少しずつしか上げられず、大した効果はあがっていない。今年1-3月期、中国の金融機関による不動産に対する投資総額は、前年同期比28%の急増を続けている。(関連記事

▼生産設備過剰の鉄鋼、自動車、エアコン、携帯電話

 各地で不動産開発が乱発されていることは、建設資材の需要増を生んでいる。たとえば鉄鋼の生産は急増し、1998年以来、中国の鉄鋼生産はダントツの世界一となっている。04年には2億7千万トンの生産で、第2位の日本とアメリカ(いずれも1億トン強)の2倍以上を生産している。中国の鉄鋼生産の多くはH形鋼など建設資材用で、自動車や家電用などの表面処理鋼板は少ない。不動産バブルが崩壊し、建設需要が急落したら、鉄鋼需要も急減し、製鉄業界は大幅な過剰設備を抱え、大赤字を出すことになる。

 JETRO(日本貿易振興会)上海センターが2005年11月に作成した資料「変わりゆく中国の事業環境」によると、過剰投資は自動車(乗用車)、エアコン、携帯電話といった分野でも起きている。

 乗用車の場合、WTO加盟によって外資が参入しやすくなったため、欧米日の外資系メーカーが新規参入や生産増加を行い、値引き競争が激化して値下がりした(もともと、自動車価格は日本よりかなり高かった)。乗用車は、所得が増えた都市住民の手の届く商品となり、販売台数は2002年と03年に毎年50%-70%という急拡大を見せた。乗用車の生産能力は01年からの3年間で倍増し、トラックなどを含めた自動車全体の生産では、01年には世界第8位だったが、05年にはアメリカ、日本、ドイツに次ぐ世界第4位にまで上がった。

 02年からの販売急増は長続きせず、04年には売れ行きが鈍化して17%の販売増にとどまり、メーカーは急に過剰在庫を抱え、新工場の建設計画を中止する事態となった。中国で操業する自動車メーカーは、以前から「13億人市場」というイメージが先行して過剰な生産能力を用意してしまう傾向が続き、工場の平均的な稼働率は乗用車で30%前後、トラックなどを含めた自動車全体では40%台だった。02-03年の販売急増で、いったんは稼働率が上がったが、その後は再び稼働率が下がり、生産設備が過剰になっている。

 エアコンと携帯電話も、中国国内企業の新規参入が相次いだ結果、生産過剰と激烈な値引き競争になっている。これらの商品では、値引き競争が激化した結果、世界的に見ても中国製品は非常に安い状態になり、安いので欧米などの世界市場での売れ行きが爆発的に上がり、02年から04年にかけて輸出が2倍以上に急増した。

 特に、従来は冷房を使わなかったヨーロッパ諸国の人々が、このところの毎年の暑い夏をしのぐため新規にエアコンを買い、安い中国製品が良く売れた。中国国内では、値引き競争で最安の価格帯は1台1000元(1万円台)まで下がり、都会の市民の多くがエアコンを買った結果、夏に大停電を引き起こす事態となった。その一方で、輸出が増えてもまだ売れ残りは多く、在庫は急増し、価格下落でメーカーの利益は出なくなり、大赤字を抱えて撤退する企業も続出している。

▼不良債権隠しの横行

 不動産や鉄鋼、自動車、エアコンなどに対する過剰投資の状態が起きていることは、中国の経済成長の「質」の問題に大きな影を落としている。ここ数年の中国の経済成長を見ると、全体としての成長率は8-10%だが、その要因の6-7割は、固定資本形成、つまりビルや道路、工場設備などを作ることによる経済成長である(輸出も増えているが、輸入増と相殺されている)。

 すでに述べたように、ビルや工場設備への投資の中には、使われない、売れない過剰投資が多い。この過剰な部分は近い将来、確実に減少すると予測される。過剰投資のバブルが崩壊し、過剰投資の反動で経済成長の固定資本形成の部分がゼロになったとすると、中国の経済成長率は3%前後になる。民間と政府の消費が中心である。中国政府は、経済成長が5%以下になると雇用が創出できず、社会不安が起きると予測している。

 中国の金融界には、不良債権の問題もある。中国には4つの大手銀行があり、いずれも国有で、政治がらみの融資案件を断れない。中国政府は1980年代から現在までの市場経済化の過程で、売れるものを作れず行き詰まる全国の国有企業に対し、4大銀行から給料などの運転資金を融資させて延命させ、社会不安を防いできた。(4大銀行とは、中国工商銀行、中国農業銀行、中国銀行、中国建設銀行)

 こうした融資のほとんどは返済されず、不良債権となっている。市場経済化が完了し、不良債権の増加が止まったら、その後の利益で不良債権の消却をする予定なのだろうが、まだその時期は来ていない。

 その一方で中国は、WTO加盟との関係で、金融市場の透明度を上げねばならなくなっている。同時に中国の大手銀行は、国際的な市場で株式を公開したり、社債を発行したりして、資金調達を拡大しようともしており、6月には4大銀行の国際上場の皮切りとして、国際業務に強い中国銀行が香港株式市場に上場した。(関連記事

 こうした流れの中で、中国の金融界は不良債権の開示を求められているが、開示は正しく行われておらず、不良債権隠しが行われていると欧米から指摘されている。中国政府は、1999年以来5000億ドル相当の不良債権を処理したと発表しているが、そのうち3300億ドルは、4大銀行から国有ノンバンク4社に譲渡されただけで、金融界全体の不良債権としては残っており、事実上「未処理」のままである。(関連記事

 国有銀行から国有ノンバンクへの不良債権譲渡は、国有銀行の財務諸表を実態以上に健全に見せるための「とばし」であり、会計を粉飾する行為である。中国では金融以外でも、企業の国際的な上場が相次いでいるが、上場前にこの手の粉飾を行っていると疑われる企業がかなりある。多くの場合、上場するのは大きな国有企業グループの中の比較的健全な1社で、上場前にグループ内の他の企業に不良債権を移管し、経営内容を美化している。日本でも有名になった有名ブランドの中国企業ですら、この手の粉飾をやっている疑いがある。

 中国銀行の上場直前の今年5月上旬、国際的な会計事務所アーンスト・アンド・ヤング社(E&Y)が「中国の不良債権は、政府発表の3倍近い9000億ドルに達している」と指摘する報告書を発表した。国有銀行の上場直前という重要な時期だったため、中国政府(中央銀行)はE&Yの発表を「大間違いだ」と激しく非難した。

 E&Yは、中国の不良債権をジャンク債として欧米市場で流通させる仕掛けを作ろうと考えて、報告書を作成したのだったが、中国政府から嫌われたら、ジャンク債のビジネスができなくなる。同社は「弊社の報告書は間違いでした。中国の不良債権の規模は、中国政府の発表どおりです」という訂正と謝罪を発表した。(関連記事

 金融関係者の間では、E&Yは中国政府の圧力を受けて発表を引っ込めただけだと考えられており、不良債権の規模が中国政府の発表額よりかなり大きいことは、ほぼ確実と思われている。今後、中国の不動産バブルが崩壊すると、不良債権はさらに増えることになる。

▼アメリカの消費減退は中国に大打撃

 中国では、国有企業が従業員の人生を丸抱えしていた1970年代までの社会主義経済体制が崩壊した後、市場経済型の年金制度が未整備である。そのため人々は個人の貯蓄を増やして老後に備える必要に迫られ、消費を抑制しており、内需が拡大しにくい。

 その影響で、中国では、内需より輸出の伸びの方が大きい。内需(小売り売上高)はここ数年、9-17%の伸びだが、輸出は22-35%の伸びである。そして輸出入にたずさわる企業の6割は、外資系企業である。つまり中国経済は、欧米日などの外資系企業が、海外から原材料を持ってきて、海外市場向けの製品を作って輸出することによって成長している部分が大きい。

 中国からの輸出先を見ると、アメリカ21%、EU18%、日本12%などとなっており、アメリカ向けが最大である。以前の記事に書いたとおり、アメリカの消費市場は、不動産バブルの崩壊や金利高の悪影響を受け、減退しそうな状況にある。今後、アメリカの消費市場が大幅に縮小した場合、中国は日本などより大きな打撃を受ける。

 最近では、世界から中国に生産拠点を移す企業が増えた結果、広東省などで工員の人件費が上昇し、生産拠点をバングラディシュやベトナムなど外国に再移転させる企業も出てきた。その一方で、中国企業の生産効率が上がり、生産が増えても以前のような大量雇用が必要なくなり、雇用創出の効果が下がっている。(関連記事

 中国では数年前に大学生の定員を全国的に増やした影響で、昨年あたりから大卒者の就職状況が劇的に悪化し、雇用不安が起きている。中国では大卒者はエリート知識層で、彼らが政治的な不満を持つと、1989年の天安門事件のような政治不安に結びつきかねない。農民暴動は補償問題なので、大方の案件はカネで解決できるが、エリート層が政治体制に不満を持つと「政権転覆」につながりかねない。(関連記事

▼経済が悪化しても政権転覆はない

 とはいうものの、天安門事件のような「民主化要求」の大規模な政治運動は、しばらくは起こりそうもない。天安門事件の時は、となりの社会主義国ソ連でゴルバチョフ書記長が、経済自由化だけでなく政治自由化も同時に進めていた。トウ小平が進めていた中国の自由化は経済だけで、政治の自由化はやらないと決めていた。1989年5月のゴルバチョフの北京訪問を機に、中国の共産党員(エリート)たちの中から「わが国も、経済開放だけでなく、政治開放(民主化)を進めた方が良い」という主張が噴出し、それに対する最終的な弾圧が天安門事件となった。

 つまり天安門事件の時には、中国人の前に、自国の現状よりも良いと思われる他国のモデルがあった。現在の中国には、他国のモデルは存在しない。社会主義の独裁政治体制を保ったまま、輸出入や海外からの巨額の投資によって、製造業を軸に毎年9%の高度経済成長を続けている国は、世界に例がない。ブッシュの「強制民主化」によってイラクがどうなったかを見た中国人は、アメリカからの民主化要求は中国を破壊しようとするものだと思うに至っている。北京の美術学生がニューヨークの自由の女神像を作った天安門事件の時とは、状況は全く違う。

 そもそも、天安門事件の時に北京の大学生らが怒っていたことは、役人の腐敗だった。政治を民主化すれば腐敗はなくなると、若者らは思っていた。役人の腐敗はその後、さらにひどくなっているが、民主化はこの問題を解決しない。中国は地域による多様性が激しく、民主化すると確実に地方政府の力が増し、中央政府の力が弱くなる。今は中央がガミガミ言って、何とか地方の腐敗を悪化させないようにしている。中央政府の権力が失われたら、地方政府はもっと勝手なことをやるようになる。民主化は、中国の腐敗問題を悪化させてしまう。

 中国の人々は、そのことを知っている。だから中国では「経済自由化のテンポが速すぎる」「いや、速すぎない」という議論はあるが、共産党独裁という政治の枠組みそのものを変えた方が良いという議論にはなっていない。中国の知識人と話してみると、民主化の議論がないのは、議論を上から禁止されているからではなく、早急な民主化は今の中国に必要ではないと思っていることが分かる。

▼欧米投資家を引きつける巨大な内需の潜在力

 今後数年の間に、中国の過剰投資のバブルが崩壊し、経済成長が一時的に落ち込むことが予測されるが、その一方で、中国人はまだ全体として貧しく、長期的に見ると、内需拡大の潜在力は非常に大きい。中国には過剰投資や不良債権粉飾の問題があるのに、欧米からの投資が旺盛なのは、この巨大な内需の潜在力があるからだ。

 1910年代から中国に注力し続けているアメリカの多極主義勢力であるロックフェラー財団は、その象徴である。欧米の大資本家の中国に対する入れ込みようを見ると、過剰投資バブルの崩壊は一時的な成長の減退にしかならず、その後再び経済成長が続き、中国はバブルの発生と崩壊を繰り返しながら成長していくのではないかと感じられる。

 ブッシュ政権は、中国に対してさかんに民主化要求をおこなっているが、ブッシュ政権に献金しているアメリカの財界人の多くは中国投資で儲け、すでに中国に巨額の投資資金を入れており、民主化で中国が混乱することを望んでいない。アメリカの中国に対する民主化要求は、中国側に無視されることを前提に、何か別の目的(多極化など)に基づいて発せられているとしか思えない。

 なお、今回の記事に使った経済指標の多くは、経済産業省が今月に作成した資料「中国経済概況と日中経済関係」と、JETRO上海センターが2005年11月に作成した資料「変わりゆく中国の事業環境」を参考にした。

Monday, May 07, 2007

そのIT投資は本当に必要なのか?

X社の経営者は、自社のIT(情報技術)投資には多くのムダがあるのではないかと感じていた。本社にIT部門はあるものの、全社のITコストを必ずしも把握しておらず、各事業部門が独自の予算の中でシステム開発を行っている。かといって各事業部門には、必ずしもIT担当が配置されているわけでもない。中にはたまたまITに詳しいというだけの理由で、ITの管理を任されている者もいるようだ。
 そこで、外部のアドバイザーを招き入れ、体制を立て直すことにした。アドバイザーは、まずIT支出の全体像を把握することから分析を始めた。その結果、予算上で管理されている以上のシステムが社内に存在することが明らかになった。
 具体的には、予算上は「研究開発費」「販売管理費」などの名目になっておりITコストとして計上されていないのだが、実態はシステム開発や機器調達に充てられている「隠れITコスト」がかなりの額に上ることが判明した。資産としても、端末やサーバーなど本社IT部門が把握していないものが数多く発見された。リースを受けているサーバーが当初想定した数の倍以上ある実態も明らかになった。
社内で100件以上も寄せられたIT投資計画
 こうした実態を踏まえて、アドバイザーは大きく2つの改善案を提案した。1つ目は、ITコストを早急に適正化するために、仕掛かり中の大型開発プロジェクトについて内容を再吟味し、今年度の支出を最低限必要なレベルにまで絞り込むこと。2つ目は中期的な対策として、社内のIT投資に関する意思決定を透明化することである。
 これを受けて大型案件の内容を即座に見直すと同時に、次年度のIT投資予定を吟味するため、役員全員がメンバーとなる「IT投資会議」を年末に開催する運びとなった。
 各事業部門に対しては、このIT投資会議で審議しないものは次年度の予算対象にはならないことを明示した。この結果、各部からは合計で100件を上回る投資計画が寄せられた。既に推進中のシステム開発プロジェクトもあれば、次年度から新たに開発を始めたいというものもある。
 驚きだったのは、各部から提示された計画を単純に足すと、今年度のIT予算の50%を超える額になったことだ。「ここで提案しておかないと“足切り”に遭ってしまう」と、あわてて提案してきたようだ。事実、提案内容を見ると、まだまだ構想が固まっておらず、必要額も大雑把な概算レベルの新規開発案件が多く見受けられた。
 100件以上の案件を全部審議することは不可能なので、本社IT部門は、第1回の議論の対象を「新規の案件で、かつ1件当たり1億円以上のもの」に絞ることにした。それによって対象は10件程度に絞り込まれた。
実態は「事前調査段階」だった案件
 いよいよ、初めての全社IT投資会議の日を迎えた。まず、案件を提案している各部の部長に趣旨を説明してもらう。部門の長である部長に責任者としての意識を持ってもらうために設定したルールである。ただし実際には説明が十分にできないだろうと思われる部長もおり、補足要員の同席を認めることとした。
 案の上、各部長の説明の質、レベルには相当のバラツキがあった。社長の目から見て興味深かったことに、提案内容への精通度合いにバラツキがあるのは当然として、ITにかける思い入れにも各人各様の差があるようで、淡々と説明をする部長もいれば、自分が思い描く夢を滔々と語る部長もいた。
説明の後は、質疑応答である。ここでは社長も含め経営陣から素朴な質問が数多く出された。多くは、ITシステムの必要性や費用対効果に関するものである。会議の後半になると役員陣も慣れてきて、「IT以外の方法で解決できないのか」「顧客やユーザーのニーズを正しく把握できているのか」といった質問や、そもそもIT投資の前提となっている事業構想やビジネスモデル自体は問題ないのか、という問いかけも出るようになった。

 こうした中で、社長はあることに気づいた。「IT投資案件」と言っていながら、実は実際にシステム開発を行うものではなく、事前調査段階のものが多かった点である。まだ構想段階にあり、「もしかしたらシステム化する必要が出てくるかもしれない」という施策が、あたかも「IT投資」を前提として捉えられていたのだ。

 会議では、「この案件はやめよう」と結論づけられたものは、1件もなかった。むしろ、「実施までにこうした点をチェックするように」という宿題が与えられた。決してルーズな意思決定をしたわけではない。むしろ、「仮に予算が認められても自動的にOKということではない、実際の予算執行時には改めてIT投資会議の場でその内容を吟味するよ」という意味である。これは事前に外部アドバイザーとの打ち合わせで決めておいたことである。

議論を繰り返すことでIT組織力は高まる

 会議は予定時間を大幅に超えて終了した。初めての全社IT投資会議を終えて執務室に戻った社長は、今日の会議を振り返ってみた。そして、自分なりのいくつかの発見を心にとどめた。

 第1に、IT投資と言いながら、実はシステム開発の前段階の調査や構想作りを行うものが散見されたことの意味である。これまでにも、システム開発を前提として「調査作業」が開始され、いったん始まってしまうと自動的にシステム構築が始まってしまったものはないだろうか。

 また、今までITベンダーに依頼していた「構想作り、フィジビリティー(実行可能性や採算可能性)調査」などの作業は、本来は社内の業務部門が考えるべき内容ではなかったのか。依頼されたITベンダーも実は困っていたに違いない。そんな実態が白日の下に晒されただけでも、大きな意義があるように感じられた。

 次に、部長たちのITに対する思い入れの差である。淡々と説明する者がいる一方、一部の者はあたかも我が子のようにシステム投資を擁護する。これは、システムに期待する内容に相当のバラツキがあることを示しているように思えた。客観的な視点から妥当性を吟味して、社内に共通の見方を作り上げていくことが重要だろう。

 最後に、大きな案件だけとはいえ、社内のIT投資案件を共通のテーブルの上に載せ、役員全員の目に触れさせたことの意義である。具体的なコスト削減や投資効果の向上につながったわけではないが、こうした議論を経営陣が行ったこと自体に大きな意義がある。今日1日を振り返ってみても、質問の質が随分と向上したようだし、経営陣の中に「正しい質問」が出せる素地ができてきたように感じられた。

 今日のような議論を繰り返すことで、IT管理の組織スキルを高めていくことができる。その第一歩を踏み出すことができたに違いない。今後も時間はかかるかもしれないが、継続していこう──。社長はその思いを強くして帰路についた

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